人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2014年03月31日

定年退職後のシニア人材に特化した派遣会社

今回クローズアップするのは「高齢社」

総人口減少の中、「超高齢社会」に突入している日本。社会保障費の抑制や労働人口の確保は待ったなしの課題だ。その最も強力な処方箋は、高齢者自身に働いてもらうことである。定年後のシニア活用に特化した人材派遣会社・高齢社は、時代の要請を具現化した先進的存在といえる。

  • ● 社名/株式会社高齢社
  • ● 設立/2000年1月
  • ● 代表者/代表取締役 上田研二
  • ● 本社所在地/東京都千代田区外神田3-6-4 OSビル5F
  • ● 資本金/1000万円
  • ● 従業員数/692名(2014年3月31日時点)
  • ● 年商/4億5921万円(2012年3月期)

「60~64歳の仕事をしている人の56.7%が65歳以降も「仕事をしたい」

日本の高齢化率は2060年には39.9%に達すると予測されている*1。増え続ける社会保障費問題の改善や、労働力人口の確保のためにも、「高齢者の就労」は大きな課題となった。そこで、高年齢者雇用安定法が改正され、2013年4月1日から年金(定額部分)の支給開始年齢が65歳に引き上げられた。
しかし、定年を過ぎてもまだまだ元気で、「働き続けたい」というシニアは多い。60~64歳の仕事をしている人のうち、56.7%が65歳以降も「仕事をしたい」と考えており、「仕事をしたくない」人(16.6%)を大きく上回っている*2。また、国際労働機関(ILO)によれば、2010年での65歳以上の男性の労働力率は日本が28.8%で、2位の米国(22.1%)に大差をつけ先進主要7カ国のなかでトップだった。 世界的に見ても高いわが国の高齢者の就労意欲に、国は"生涯現役社会の実現"を打ち出している。内閣府が掲げている成長戦略の「雇用制度改革・人材力の強化」において、「高齢者等の活躍推進」として次のような方針が明記されている。
「生涯現役社会の実現に向けて、高齢者の継続雇用に取り組む中小企業に対する職域開発等の支援を行うとともに、高齢者等の再就職支援の強化、地域の多様なニーズとのマッチングによるモデル的な就労促進の取組への支援等を実施する」
*1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年)
*2 厚生労働省「中高年者縦断調査」(2010年)

10年間で10倍以上に業容を拡大

こうした趨勢を先取りするような人材派遣会社がある。その名も「高齢社」。60歳から79歳までのシニア層ばかり約690名を登録し、住宅のガスメーターの検針やガス器具の点検・メンテナンスといった業務を中心に人材を派遣している。
同社の経営理念の1番目には、次のように書かれている。
「定年を迎えても気力・体力・知力のある方々に『働く場』と『生きがい』を提供していく」
2000年1月に同社を創業した代表取締役の上田研二氏は、次のように創業の動機を言う。
「私が高齢社を立ち上げたのは、『人は財産・人は宝』という考え方に立って、働く意欲のある高齢者と、そうした人たちを求める企業に喜ばれ、社会貢献を果たしたいという思いからでした」
上田氏のねらいは的中し、2003年度に登録社員80名で約3500万円の売上高だったところから右肩上がりの成長を続け、2012年度は約4億5900万円を売り上げ、10年間で10倍以上に業容を拡大している。

妻から煙たがられる"産業廃棄物"の働き口をつくる

東京ガスで協力会社政策を担う部署のマネージャーを務めた後、経営不振に陥っていた関係会社に経営者として出向し再建を成し遂げた上田氏は、そこで高齢社設立のきっかけを得た。
「出向先はガス機器メーカーの協力会社でしたが、そこの社員は定年を迎えてもなお働く意欲があり、彼らの豊かな経験や技能を何とか生かせないかと思ったのです。もう一つ、受託していたガス給湯器の使用前試験の発生時期や発生量の変動要因が大きく、発生すると一時期に相当数の要員が必要になるということがありました。そこで私は、この業務を定年退職したOBに手伝ってもらえばいいと考えたのです」
上田氏がそう思いついたのには、次のような背景があった。50歳を過ぎてそろそろ定年を意識し始めた上田氏の耳に、定年退職した先輩たちの日常の様子が入るようになった。
「"毎日が日曜日"だから、飲み会やゴルフなどでしばらくは楽しく過ごせたものの、そのうち飽きて家でゴロゴロするようになると妻から煙たがられるようになった、というものでした。そんな先輩方を口の悪い私はよく冗談で"産業廃棄物"と言っていました(笑)」
シニア層が働きたくても働き口はなかなか見つからない。「ならば、自分が働き口をつくろう」と考えた上田氏には勝算があった。」

「働く側」と「働いてもらう側」のニーズが見事に合致

まず、そもそもが年金受給者で、生活のために働くというよりも仕事そのものを続けることに意義を感じているので、賃金へのこだわりは薄い。また"毎日が日曜日"ならば、休日の業務でも時給の割増など不要である。それでも週3日も働けば10万円ぐらい稼げ、大威張りで遊びに行ける。妻や家族から煙たがられたり邪険にされることもなくなる。
一方、派遣先の企業にしてみれば、経験豊富な即戦力に確実な業務を依頼できる。しかも賃金を圧縮できる上に、教育の手間やコストも不要なので余計なコストもかからない。さらに、豊かな人生経験の持ち主として、仕事現場を共にする若手社員への教育効果も期待できるのだ。つまり、「働く側」と「働いてもらう側」のニーズが見事に合致した、互恵関係が成立しているのである。
「まさにいいことずくめです」と上田氏は破顔する。
派遣スタッフのシニアが朝早く出勤し、頼まれもしないのに清掃をしたことを機に、毎朝全社員で清掃をすることを決めた派遣先企業もあるという。

定年退職したシニアが喜ぶ施策で厚待遇 モチベーションを高収益につなげる

上田氏は、かつて経営危機の出向先を再建した経験をもとに、高齢社の経営にも「社員・協力企業≧顧客≧株主」という"人本主義"を打ち出した。その具体的な方法論として「社員の厚待遇⇒高質労働⇒高販売⇒高収益」というサイクルを回すことを中心に据えている。シニアのモチベーションを高める"厚待遇"としては、次のような施策がある。例えば、年2回の懇親・慰労会の開催、上田氏の考え方や派遣社員の活躍の様子を伝える社内報の発行、社員相談窓口の設置など。中でも「顔写真入りの社員証」は大好評だという。
「定年後に所属先がなくなることは寂しいものです。そんな思いを払拭してもらえるツールとなっています」
また、オフィスに置かれた3台の冷蔵庫にはビールやつまみがぎっしり詰められており、16時以降の来客には社員ともどももてなす習わしがある。
もちろん、金銭的な待遇にも配慮しており、黒字が出たら一定の割合で利益の一部を社員に還元する決まりもつくっており、2013年度は総額1200万円を分配した。

「定年退職後の高齢者に対するマネジメントポイント

定年退職後の高齢者に対しては、特有のマネジメントポイントもある。特にOBを出身企業に派遣する場合が多い同社がスタッフに渡している注意書きには、次のように書かれている。
「たとえ上長がかつての部下でも、「さん」づけで。現役時代の職位・資格は言わない」
「過去の成功談(自慢話)は言わない。派遣先社員には教えていただくという姿勢で」
「かつての部下も、後輩も、いまはすべてお客様という意識を」
「過去の知識・経験を活かしつつ、謙虚な気持ちで仕事に取り組む」
上田氏は次のように言う。
「もちろん、問題を起こした派遣社員は年上であっても厳しく注意はしてきましたが、私の対人関係づくりの基本には"相手を好きになる"ということがあります。そのためにも、まず相手を褒めるのです。人間、何歳になっても褒められると嬉しいものですよ(笑)。その上で注意すれば、行動が変わります」

シニアならではの"処世の知恵"が強み

では、実際に派遣スタッフのシニアはどう感じているのだろうか。派遣スタッフとして働いている中村龍雄さん(62歳)に聞いてみた。中村さんも以前は東京ガスの社員で、その経験を活かしてガス栓や給湯器のメンテナンス作業などに従事している。そんな中村さんは、高齢社の待遇では「顔写真入りの社員証」を特に嬉しく思っているという。
「退職した時に社員証を返納して、まだまだ働けるつもりだったのに何だか寂しい思いをしました。しかし、高齢社でまた社員証をもらえたことで、自分が社会の一員に戻れたように思えたのです。社会で働く自覚も生まれましたね」
そんな中村さんは、シニアとしての強みを次のように自認している。
「お客様のところに訪ねた際、まず、マンションなどのモニターで若い人に比べて警戒されにくいと思います(笑)。それに、お客様に柔らかく接することができるように思えますね。また、お客様の様子に応じてちょっとした会話の工夫もできると思います。そういった処世の知恵があるのではないでしょうか」

仲間と会話ができる喜びと社会での役立ち感が生きがいに

一方、体力面では若手にはかなわない。中村さんは「仕事では自転車で家庭を巡回することが多いが、電動自転車を用意してくれるとありがたい」とシニア層に対する配慮の必要性をにじませる。
最後に、働き続けることの意義について次のように話してくれた。
「家では妻と二人きりなので会話も少ないのですが、ここ(高齢社)に来ると仲間がいて、いろいろと話ができるんです。それが嬉しいんですよ。自分より年上ばかりですが皆元気で、自分も元気をもらえます。仕事そのものは決して楽ではありませんが、社会に役立っているという実感があるので苦ではありません。しかも週3日程度だと余裕を持って働けるので、ちょうどよいですね。本当に生きがいになっていますよ」

駐車違反防止のための「営業車同乗」という依頼も

ところで、高齢社は上田氏の古巣である東京ガスOBを派遣スタッフとする派遣会社としてスタートし、派遣先ももっぱら東京ガス関係に寄せてきた。今では東京ガス関係は半分程度となり、さまざまな業務への派遣要請が寄せられている。
「例えば、営業車で巡回するのに一人で回ると、巡回先で車を駐停車させる際に違反のキップを切られてしまうことがあります。しかし、運転免許証を持つ同乗者がいる場合は問題ありません。そこで、"ただ車に乗っているだけ"という依頼がありました」と上田氏。もっとも、そういった付加価値の低い業務はまれで、「財務管理体制コンサルティング業務」「ケーブルテレビ営業業務」「リコール物件折衝業務」といった高度な業務を含む、一定の経験を要する業務案件が多い。

女性シニアの活用と地方での"第2、第3の高齢社"づくり

そして同社は2013年7月に60代の女性スタッフを主体とする家事代行サービス会社の株式会社かじワンを設立し、女性シニアの活用に領域を広げた。また、高齢社は関東地区の1都4県を事業フィールドとしているが、地方の有志にノウハウを提供することにも力を入れている。
「自社で手がけないのはもったいないと言われることもありますが、高齢社の目的はあくまでも経営理念にあるとおり高齢者に『働く場』と『生きがい』を提供することです。これを全国に広げるには当社1社では限りがあるので、有志にぜひ手伝ってほしいと考えているのです」と上田氏は言う。第2、第3の高齢社が全国に生まれることが、日本の成長戦略に貢献することはいうまでもないだろう。

「高齢社」が企業に提言する高齢者労働力活用のポイント

職場環境の整備・企業風土改革
高齢者スタッフの社会参画意識や帰属意識を高める施策を用意する
教育・訓練
高齢者スタッフの経験や実績は尊重しつつも「かつての部下や後輩もすべて顧客」といった意識を植え付ける
雇用条件
休日や早朝など正社員では対応が難しい時間帯での効率的な活用が期待できる