人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2017年10月10日

「第2の学校」のような場づくりで人材育成

メイン写真

今回クローズアップするのは「ローソン巣鴨四丁目店」

慢性的な人手不足やアルバイトの定着率はどの業界でも課題となっており、それはコンビニエンスストアも例外ではありません。そんな中、ローソンで3店舗のオーナーを務める、有限会社ゑびす屋池袋本店 代表取締役の坂本一郎さんは、アルバイトの定着率を向上させ、さらに彼らを優秀な人材に育て上げています。今回は人材育成への想いと独自のノウハウについて話を伺いました。

  • ● 社名/有限会社ゑびす屋池袋本店
  • ● 所在地/東京都豊島区巣鴨4丁目17-12
  • ● 資本金/300万円

コンビニバイトは社会勉強のための「第2の学校」

「コンビニエンスストア(=コンビニ)でのアルバイトが、学生や外国人留学生などにとって社会勉強をするための“第2の学校”のような場にできればと考えています」と、人材育成について熱く話すのはローソン巣鴨四丁目店ほか計3店舗のオーナーである坂本一郎さん。レジや陳列など、ただマニュアル的なことだけを学ぶのではなく、そこで働くことで社会に出た時にも役立つようなことを学べる、社会的インフラの場としてのコンビニを目指していると言います。

写真1
「コンビニが第2の学校のような場になれば」と話す坂本オーナー。

その想いを実現するため、坂本さんは様々な工夫をしています。例えば新人アルバイトが働く初日は、坂本オーナー自らが店へ出向いて直接話をするとのこと。「私の経営に対する考え方や、ここで働くうえで持っていてほしい心構えなどを、ビデオを見ながら話します。また人間関係において大切ないくつかのポイントを、ロールプレイングを通じて体感してもらいます。」コンビニのアルバイトの初日は、掃除の仕方などを店長や先輩が教えて簡単な仕事からスタートということが多い中で、坂本さんは自らアルバイトと1対1で向き合うのです。

元アルバイトの中嶋直土さんは、大学入学時にこの巣鴨四丁目店で働き始めてから、その後の4年間を通してずっとこの仕事1本で働きました。現在は一般企業へ就職し、社会人として働いています。その中嶋さんも、初日は特に印象的だったと振り返ります。「オーナーと3時間ぐらいビデオを見ながら話をしました。第一印象、特に挨拶はすごく大切で、笑顔や声を意識していこうと教えてくれました。僕にとっては初めてのアルバイトだったので、他でもこのように色々教えてくれるのかと思っていましたが、そうではないことを知って、すごく良いところで働けたんだなと改めて思います」。

2度辞めようと思ったが、踏みとどまった理由とは

大学時代4年間に渡って働いた中嶋さんにも、辞めようと考えたことが2度あったと言います。1度目は働き始めてすぐのことでした。

「お金を稼ぎたくて、時給のいい夜勤帯の時間で働いていたのですが、不規則な生活が続き心身ともに参ってしまったんです。するとオーナーはとても親身に相談に乗ってくれました。そこで自分がひとりの人間として気にかけてもらっていることを知り、ひとまずここで続けてみようと考えなおしました。2度目は1年経った頃です。ある程度コンビニの仕事も覚えたし、他の仕事もやってみたいという好奇心が出てきて、また店長とオーナーに相談をしました。そこでオーナーから『中嶋君にいてもらいたい』と直接言っていただいたことが本当に嬉しかったんです」。

写真2
「店長とオーナーが本当に親身になって話を聞いてくれたのがとても嬉しかったですね」(中嶋さん)

中嶋さんはその後もう辞めることは考えませんでした。その理由をこう続けます。「家族でも親戚でも友人でもない人が、自分のことをこんなに見てくれているのは凄く幸せなことだなと。だから自分ももっと成長して恩返ししたいなと思って、それ以降はもう一切辞める気持ちは起きませんでした」。

信頼して仕事を任せることが成長を促す

坂本さんの人材育成は、新人研修からスタートします。
「まず、店舗で独自に作成した『新人教育シート』で決められた内容を覚えてもらいます。チェック項目は、店内清掃からLoppiの使い方、収納代行の仕方、厨房の作業まで30項目以上あって、これは1カ月ほどで終わります。その後は商品の発注方法なども順次覚えてもらいます」。

写真3
独自の新人教育シートとローソン全体で共通の評価シート

商品の発注は、季節の変わり目や気温の変化などに合わせた的確な判断が必要なため、一般的には社員やそれに準ずる人が対応することが多いそう。しかし、坂本さんはアルバイトにも積極的に任せていきます。

中嶋さんもこの発注作業を通して大きく成長したと話します。「僕は入って3カ月ほどでお酒の発注を任されました。発注作業は難しく悩むこともたくさんありました。だから出勤したらまず売り上げを見て、どの商品が売れているか、新商品の動きはどうかなどをチェックするようにしていました」。

写真4

実際に、成功もあれば失敗したこともあったといいます。「夏場に一列全部を売れ行きの良い缶ビールにして売り上げを大幅にUPさせたこともあれば、それまで発注量が20個程度だったロールケーキを120個発注し、特設売り場を設けることで売り切ったこともありました。その一方で、消費期限の短いデザートを発注しすぎて、大量の廃棄を出してしまったこともあります」。

写真5
「発注作業はオーナーや店長に相談しながら試行錯誤でしたが、失敗も成功も含めて成長できたと思います」(中嶋さん)

失敗についても坂本さんはこう考えます。「最初は誰でも失敗するものです。売り切れてしまったり、発注数が多すぎて余ってしまったり。でも、我々がフォローを入れると本人が気づかないままで、改善しないし責任感も育たない。ですから自分でどうしたらいいのかを考えてもらうようにしているんです」。

発注作業に悩む中嶋さんを支えたのは、坂本オーナーだけではありません。店長である鶴川さんは、よりアルバイトと近い距離でアドバイスをして、中嶋さんを手助けしました。
「店長には日頃から雑談感覚で気軽に相談することができて、とても心強かったです。何より失敗も成功も受け入れてくれる場所だったので、気にせず伸び伸びできました。それとオーナーも店長も基本的なことは教えてくれましたが、あとは自由にやらせてもらえたことで、自分自身でこうしてみよう、ああやったらどうかと工夫して勘を磨くこともできました。上からあれこれ言われていたら、きっとこんな風には成長できなかったと思います」。

また、坂本さんは中嶋さんに「リーダー試験」を受けるよう勧めました。
「ローソンには『クルーランクアップ制度』があります。新人として入ったら、その上がレギュラー。続いてサブリーダー、リーダーと上がっていきます。サブリーダー以上になるには、店長と本部から来る指導員の評価が必要ですが、中嶋君は完全に受かるレベルまでいっていると感じたので、受けてみなよと」。そして中嶋さんは、マネジメント、コミュニケーション、情報共有など、20項目ある評価シートと1日かけての本部での試験を見事クリアしました。アルバイトであっても、業務スキルや仕事に対する意識が十分だと判断すれば、こういった機会を作り、さらなる成長を促しています。

「ひとりの人間」として向き合っていくことが大切

坂本オーナーのもとで店長を務めている駒込一丁目店の吉田さんは、このような坂本オーナーの人材に対する考え方が、アルバイトの成長と、人手不足から起こる様々な悪循環から脱出する鍵になると話します。「アルバイトの教育は時間とお金の無駄だと考えている経営者や社長、店長は少なくないんです。学生は数年間しか働いてくれないから、そこまで教えたってしょうがないと。でも、そういった近視眼的な考えで教育を怠ると、活躍できる人材が育たず、結果として一部の社員に過度な負担がかかってしまいます。それで会社はドツボにはまっていくんです。この悪循環から抜け出すための大きなヒントを、坂本オーナーは提示しているように思えます」。

写真6
右から坂本一郎オーナー、巣鴨四丁目店店長・鶴川大介さん、今年3月までアルバイトだった中嶋直土さん、駒込一丁目店店長・吉田明弘さん

坂本オーナーは常々社員に「ここは第2の学校なので、悩んでいたら、その人の道を自由に選択させてあげてください」と話していると言います。個人の自主性を尊重するように心掛けると共に、困難に直面した人には密にコミュニケーションを取り、親身なアドバイスを送ることを欠かしません。アルバイトを単なる労働力としてではなく「ひとりの人間」として向き合っていくその姿勢が、彼らのモチベーションにもつながり、良い循環が形成されているのです。坂本オーナーの人材育成は、今後さらに大きく実を結んでいくでしょう。

「ローソン巣鴨四丁目店」の事例から学ぶ人材活用のポイント

作業よりも心構え
出社初日は、いきなり掃除やレジ操作といった作業の話から入らず、接客や働くうえでの意識することなどの心構えから話しあう。
仕事を任せる
発注業務といった自ら考えることが必要な業務を任せ、売り上げをつくる意識や責任感を養い、成長の促進を図る。
店舗と本部の評価基準の連携
店舗独自の新人教育シートによる育成のみならず、ローソン全体で共通の評価シートを用いて、ローソン全体や他社でも通用するスキルを育成。本人のモチベーションアップにもつながる。