人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2018年06月15日

「働き方改革」と「テクノロジー」~戦略と現場の接続~(前編)

メイン写真

「働き方改革」と「テクノロジー」~戦略と現場の接続~
HR Intelligence Forum  Showcase Conference 前編:基調講演
<フォーラムレポート> 
開催:2018年5月23日 六本木アカデミーヒルズ

雇用や労働環境が変化するなかで、柔軟な視点での人事課題の解決が求められる昨今。リクルートジョブズが開催した本イベントでは、経営視点からみる人事課題、テクノロジーを活用し解決した事例等について、基調講演やディスカッションが行われました。その内容の一部をご紹介します。

基調講演(前編):
日本マクドナルド株式会社 執行役員 人事本部長 長敦子氏
株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山哲人氏

パネルディスカッション、分科会(後編)
株式会社オリエンタルランド 人事本部キャストディベロップメント部 部長 山田恭嗣氏
株式会社陣屋 代表取締役女将 宮崎知子氏

●多様な人材に活躍してもらうためのEVP(Employer Value Proposition)

最初の登壇者は日本マクドナルド株式会社 執行役員 人事本部長の長敦子氏。「多様な人材に活躍してもらうためのEVP(Employer Value Proposition)」をテーマに、マクドナルドで働くクルー(アルバイト)の活用などについてお話いただきました。

写真1
日本マクドナルド株式会社 執行役員 人事本部長 長敦子氏
西友を経て2013年4月に日本マクドナルドに入社

クルーの満足度がビジネスの生命線

日本マクドナルドは1971年に創業し今年で47年目を迎える世界的ハンバーガーチェーン。日本の店舗数は2,911店舗と、米国に次いで世界第2位の市場です。毎日約200万人のお客様が訪れ、それを迎えるクルーは約14万人。マクドナルドのビジネスは、マクドナルド・フランチャイジー(加盟店)・サプライヤー(食材や機器を提供する会社等)の3つが一体となって行われており、「Three-Legged-Stool(三本足の椅子)」という言葉で表現されます。

「創業者のレイ・クロックは『マクドナルドはハンバーガービジネスではなく、ピープルビジネスである』と言っています。つまり大切なのはビッグマックでもポテトでもなく、『ピープル』こそが最高の競争優位性なのだということ。毎日約200万人のお客様がマクドナルドに来店しますが、14万人のクルーの対応次第でビジネスの成否が決まるといえます。ですから採用はもちろんですが、教育がとても重要になります。50年近くマクドナルドに携わった私の先輩は、70%の時間をOJTやフィードバックも含めたトレーニング(研修)に使うべきだと話していましたが、まさにその通りといえます」

マクドナルドのアンケートによれば、働くクルーの満足度は84%、友人紹介による採用も60%に上ります。クルーの満足度こそお客様の満足度に繋がる、「ビジネスの生命線」ともいうべきものなのです。

「フレキシビリティ」「ファミリー&フレンド」「フューチャー」をEVPとして訴求

2014年、2015年とビジネスの難局を迎えていたマクドナルド。それを乗り切るためのリカバリ戦略と共に大きなテーマとして掲げたのが、レイ・クロックの言葉を表現した「POWER of ONE」という標語です。「経営トップからクルーまで働く一人ひとりがそれぞれの役割を果たすこと、そして1チームで働くという2つの意味をもちます」という長氏の説明の後、この「POWER of ONE」をテーマに全国の店舗から寄せられた、クルーらによるダンスのVTRが流れました。一致団結して難しい局面を乗り越えようと取り組んだ一例です。

2016年にビジネスが大きく回復すると、クルーの採用が急務となりました。そこで実施したのが2017年春の「クルー体験会」。マクドナルドでどのように働くのかを30分間で体験できるというこのイベントは、参加者の約98%が満足したと回答する結果に。「しかし、我々はスタッフィングについて依然として大きな機会点がありました。マクドナルドで働くのは10代など学生が多く、学生の職場というイメージが強いという点です。そこで目指したのが『誰もが働きやすい職場』です」。

そこで2017年秋、「マックなら、大丈夫」という標語で主婦やシニアを対象にしたクルー採用強化キャンペーンを実施。マクドナルドのEVP(Employer Value Proposition)=従業員への価値の提案として、「フレキシビリティ」「ファミリー&フレンド」「フューチャー」の3つを明確に訴求したといいます。「フレキシビリティは労働時間の自由さ、ファミリー&フレンドはチームで仲良く働くこと、フューチャーは将来にわたって使えるスキルが身につくといったことを指します」と長氏。そして実際にマクドナルドのクルーとして働く主婦とシニアをVTRで紹介しました。

「まず学生アルバイト以外に主婦、シニアなど多彩な人材がいることで、シフト調整がうまくできるのがメリットです。またトレーニング環境の整備、全時間帯に『時間責任者』がいて何でも質問ができる点も、シニアでも安心して働けるポイントになります。また業務の細分化があげられます。オーダーを受ける係、ハンバーガーを焼く係、掃除をする係など、仕事が20に細分化されているため、得意なことから始めることができます。このように自分の強みを活かしながら1つのチームとして働けることが、まさしく私たちのEVPであり、これからも強化していく必要があると考えています」。

主婦、シニアなど多様な人材活用に向けて

こういった取り組みは昨年秋からで、まだ始まったばかり。クルーのポピュレーションミックスの変革には5年かかると見込んでおり、そのために社内外にメッセージを訴求し続けるのはもちろんですが、なかでも社内のコミュニケーションは重要だと、長氏は続けます。「というのは、店舗オーナーの多くはやはり学生を採っていきたいという気持ちがまだまだあるからです。大切なのは多様性が強化されたあとに、どんな世界観が実現できるかということです」。



●社員の力を活かすために重要なこと~現場の声とテクノロジーの活用~

株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括の曽山哲人氏は、「社員の力を活かすために重要なこと~現場の声とテクノロジーの活用~」と題して、従業員数20人の時代から現在の8,500人まで、急速に発展する会社を見つめ続けてきた人事のプロの視点から語ってくださいました。

写真2
株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山哲人氏
新卒で伊勢丹に入社後、1999年にサイバーエージェント入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年から現職。

良質な人間関係が退職者減少・業績アップの鍵

サイバーエージェントは1998年創業。インターネット広告事業や、AbemaTV、アメーバブログなど、様々なインターネットサービスを運営しています。曽山氏の入社当時(1999年)には社員数が20人でしたが、現在は有期雇用の社員も含めると8,500人を抱える企業に成長を遂げました。

今でこそ風通しのいい会社と評判のサイバーエージェントですが、実は2000年頃には、退職率の高さが課題だったといいます。「当時はとても雰囲気がギスギスしていて、社員で飲みに行けば愚痴や経営陣への不満ばかり。飲みに行くこと自体したくないという感じでした。経営判断に入れていない会社も多いと思いますが、『社員の仲をよくする』というのは簡単に見えてすごく重要なことなんです」と、曽山氏。

こうした課題を踏まえて、サイバーエージェントが行っているのが、飲み会代や部活動に対する支援金を支給すること。飲み会代については毎月5,000円を支給し、コミュニケーションを促します。
「仕事以外の関係性がどれぐらいあるかによって、社員同士の信頼性は変わってきます。今は転職もしやすいし、辞めることが簡単になってきています。だからこそ辞めない理由がどれぐらいあるかが大切なんです」。

オンラインアンケートシステム「GEPPO」で社員の状況をいち早くキャッチ

一人ひとりの力を活かす仕組みとして、社内人材の配置転換など流動化を促進しようという専門の部門、いわゆる社内ヘッドハンターの仕組みを設けています。このグループが活用しているのがGEPPO(月報)というシステムです。

「毎月GEPPOを使って、社員に対しオンラインアンケートを取っています。人のモチベーションは山の天気のように変わるので、タイムリーに社員の状況を把握したい。ですからGEPPOで毎月必ず質問に回答してもらい、役員会で共有して議論をしています。質問は毎回3個まで。1番目は固定で『先月の成果はどうでしたか?』という質問で、天気のマークで快晴から土砂降りまでの5段階から選びます。2つ目、3つ目は毎回変えて、ミッションの浸透度やチームの熱量を天気で答えてくださいであったり、組織の改善提案や会社のリスクについて、フリーコメントで聞くこともあります」。

アンケートは一人ひとりのコンディションを把握できるだけでなく、チームの雰囲気を理解するのにも役立ちます。こういった定性情報をいかに定量化するかというのが大切だといいます。

人事=マーケティングと考える

毎月のオンラインアンケートのほかに、安心の仕組みの事例として、macalon(マカロン)パッケージという女性活躍促進制度もあります。妊活のために休暇を取得できたり、産婦人科の先生に相談ができたりといった補助が受けられるものです。こういった制度を作るときには“しらけのイメージトレーニング”をすることで、リリース時の反発への対策、課題の洗い出しとその解決策を練るそうです。

また制度はネーミングがとても大切だといいます。「社員の感情がどうなっていてそれをどう持っていきたいのか考えることは、まさにマーケティングです。名前をつけると制度の利用が促進されます。難しい名前では浸透しないけど『マカロン使った?』なら軽く話せるんです。またマカロンという制度を友人から聞いたことがきっかけで、サイバーエージェントに興味をもったと、面接に来てくれることも。だからこそネーミングには時間をかけています」。

最後に、様々な施策により、社員の力を活かす仕組みを導入している同社ですが、経営視点でテクノロジーを活用することの重要性を教えていただきました。
「経営は直感で決めがちです。そこをGEPPOでデータを取ることで、より客観的な判断が可能になりました。データと直感は併用すべきです。またSOSを出しているメンバーにはヘッドハンターチームが面談をして、必要があれば異動を提案しています。このGEPPOを通じて、今では毎年100人~200人ぐらい異動ができており、さらに社員一人ひとりの力を活かせるようになったと感じています」。