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2018年06月15日

「働き方改革」と「テクノロジー」~戦略と現場の接続~ パネルディスカッション分科会(後編)

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「働き方改革」と「テクノロジー」~戦略と現場の接続~
HR Intelligence Forum  Showcase Conference 後編:パネルディスカッション、分科会
<フォーラムレポート> 
開催:2018年5月23日 六本木アカデミーヒルズ

雇用や労働環境が変化するなかで、柔軟な視点での人事課題の解決が求められる昨今。リクルートジョブズが開催した本イベントでは、経営視点からみる人事課題、テクノロジーを活用し解決した事例等について、基調講演やディスカッションが行われました。後編ではパネルディスカッションと分科会の概要をご紹介します。

基調講演(前編)
日本マクドナルド株式会社 執行役員 人事本部長 長敦子氏
株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山哲人氏

パネルディスカッション、分科会(後編):
株式会社オリエンタルランド 人事本部キャストディベロップメント部 部長 山田恭嗣氏
株式会社陣屋 代表取締役女将 宮崎知子氏

●「働き方改革」時代にサービス業界に求められる変化~テクノロジーと現場の実態~

基調講演の次は、「『働き方改革』時代にサービス業界に求められる変化~テクノロジーと現場の実態~」をテーマとしたパネルディスカッションです。株式会社オリエンタルランド人事本部部長の山田恭嗣氏、株式会社陣屋代表取締役女将の宮崎知子氏をお招きし、株式会社リクルートワークス研究所研究員の城倉亮氏、株式会社リクルートジョブズ執行役員仲川薫氏がモデレーターとなり、実際にITを活用し課題を克服した実例をもとにディスカッションしました。

過不足のないサービス提供に向けたテクノロジーの活用

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株式会社オリエンタルランド
人事本部キャストディベロップメント部 部長 山田恭嗣氏

オリエンタルランドの社員数は約3,300人、準社員が約1万9,000人。山田氏はテーマパークで働くパート・アルバイトの採用から教育までを一貫して担当しています。2020年に向けた中期経営計画を実行中ですが、その際にハード・ソフト、つまりアトラクションやエンターテイメントの部分(ハード)と、人(ソフト)の両面を強化していくことを実行しています。ソフト=人=サービスですが、サービスは、機能的サービスと情緒的サービスの2つに分けられるといいます。

「機能的サービスは正確で一律、迅速にお客様に求められるものを提供していく。一方で、情緒的サービスは人対人で、気持ちに寄り添ったサービス。その場その場で生まれてくるものでありマニュアル化はできないし、機械化すべきでもありません。機能的サービスの方は、オリエンタルランドでは『オペレーション力』と呼んでいて、こちらを省力化・IT化していこうと取り組んでいます」。

人事面の改善に向けてオリエンタルランドが導入したのが、「ワークフォースマネジメント」というシステム。仕事量を自動で予測して算出し、そこに従業員の希望シフトをデータに組み込みながら毎日15分単位で人員を自動配置する仕組みです。

「目的は効率化ではなく、あくまでゲストの皆様に楽しんでもらうための過不足のない配置です。以前は個人の経験値に頼るしかなかった部分でしたが、データにより精度が上がり、見える化されたことで、例えばこのレストランにこの時間にはこれぐらいの人が必要だから、それに対して人を配置しよう、ということができるようになりました」。

このシステムの従業員のメリットとして「多様な働き方の実現」があります。短い時間であれば働ける人と、短い時間でもいいから人員が欲しい職場とのマッチングが可能になるのです。約2万人という膨大なスタッフを抱えているがゆえに人力では難しいことも、システムの導入によって、従業員のニーズに寄り添った働き方を提供できつつあるといいます。とはいえ、やはり最初からこの仕組みが浸透したわけではなかったそうです。

「以前は社員が『このポジションについて』と指示を出す、ヒューマンコミュニケーションがあったのですが、それが機械に指示されるという面で、抵抗を感じるという反応もありました。
ですから、時間をかけてゆっくりと丁寧に慣れていってもらうことを心がけました。大切なのは、導入の目的を伝え続けることです。オリエンタルランドでいえば、『現場の負荷を軽減するため』ということを、しっかり伝えるようにしました」。



●倒産寸前の旅館をIT化により復活。従業員満足度も向上

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株式会社陣屋
代表取締役女将 宮崎知子氏

「鶴巻温泉 元湯陣屋」は創業から100年を数える歴史ある老舗旅館。2009年に会社員だった夫と共に急きょこの旅館を引き継いだ宮崎氏でしたが、当時は借入金が10億円もあり、いつ倒産してもおかしくない経営状態でした。その状況を打破するために、まずは経営改善方針を決めることに。稼働率を上げるために宿泊料を低く設定し、忙しいのに儲からないという負のサイクルからの脱却を目指し、稼働率は下がっても構わないから、旅館の付加価値を上げていくという判断をしました。

従業員全員にインタビューし、皆の総意で変革を進めるために決定した経営方針は以下の4つです。
①情報の見える化
②PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)の高速化
③情報はもつだけでなく活用させる
④仕事を効率化し、お客様との会話と接点を増やす

「具体的には、勘と度胸で物事を進めるのを止める。月次管理から日次管理にする。言われたこと以外やらないという社風を変える。バックヤードの仕事ばかりという状態を改善するといったことです。そして、これを実現するためにシステムが必要だったため、クラウド運用サービスの『陣屋コネクト』を導入したのです」。

予約、顧客、経営の情報を一元管理する「陣屋コネクト」は、そこから9年間に渡り開発してきました。予約から会計が終わり財務にデータが移るまで、最終的には決算書を作るところまで一元管理することを目指しているといいます。現在では、経理業務は当初の4分の1まで圧縮されました。

「陣屋コネクトの導入によって、瞬時に情報共有をすることも可能になりました。つまり『指示待ちからの脱却』です。主体性をもって働くことでモチベーションがアップし、単体タスクからマルチタスクに移行することで、フロア担当の方が掃除係よりも上といった、無意識的なランク付けもなくなります」。

旅館という性質上、当時の従業員の年齢層は50代~70代がメインでした。となるとシステムの導入の難易度は当然高くなります。そこで陣屋では、システムにログインしないとお給料がでない仕組みにして、「ATMでお金をおろしたことがあれば絶対に使える」と、高齢のスタッフにも根気強くフォローを続けたといいます。

事業継承してから3年目には赤字を脱却し黒字化に。しかし離職率が3割を切れずにいました。そこで、2014年に週休2日、2016年には週休3日に変更。木曜~日曜の宿泊営業にすることで、常にフルメンバーでお客様対応ができ、チームワークもアップしたといいます。社員の平均年収も上がり、離職率は昨年で3%にまで減少するなど、経営改善と共に従業員満足度アップをも実現しています。



●Showcase Discussion

パネルディスカッションの後は8つのテーマに分かれて、参加者同士で様々な意見交換を行いました。

1. テーマ:従業員の「働きごこち」とは?

雇用の多様化が進むなかで、いかに従業員の働き心地向上やモチベーションを高めていくかにスポットを当て、各社が抱える課題と解決策について意見交換しました。長時間労働を解消するも定着につながらないこと、従業員が多い企業の個別対応の難しさ等、抱えている課題を共有しました。A社(販売)より、仕事の適性や満足度を把握するアセスメント「RiCare(リケア)」の活用事例をもとに、働き心地づくりのプロセスや結果をご紹介いただきました。

2. テーマ:人手不足時代のシフト配置と生産性

近年増加する短時間勤務によって、従業員数が増加している現場ではシフト作成の業務負荷も高まっているといいます。シフト管理システム「シフオプ」を導入したB社(飲食業)より、シフト作成の業務効率化やスタッフの最適配置、他店舗へのヘルプ募集などの活用事例をご紹介いただきました。参加者とは、スタッフの最適化にむけた生産性の考え方・あり方、また生産性をあげるための工夫について議論されました。

3. テーマ:ES向上による事業影響

ES(employee satisfaction)の向上、CS(customer satisfaction)の向上、業績をあげることの同時実現は可能なのか?といった問いに対し、「店舗イキイキサーベイ」開発者より事例のご紹介をいただきました。従業員がイキイキと働き、お客様がワクワクするようなサービスにより業績が向上する三者同時満足のためには、施策の順番があることや、現場に思いを伝え続けることが大切と締めくくられました。

4. テーマ:シニア人材活用の工夫

シニア人材の活用は熟練労働者の活用や人材不足の影響などで注目されている一方で、業務遂行能力や労災など「何となく」の不安も大きいといいます。そこで、「しごと体力」「しごと処理力」「しごと個性」を測定する「からだ測定」を利用し、シニア個人も企業担当者も客観的に仕事への適応を判断する試みが始まっています。「からだ測定」担当者より、企業や行政での取り組みについて共有後、実際の採用シーンでの活用など意見交換がされました。

5. テーマ:既存業務の再構築と多様な働き方

従業員の業務負荷を軽減し、サービスレベルの向上及び人員の確保を進める取り組みについて話し合いました。社内調整や現場への浸透のために工夫したポイントといった具体的な話もあがりました。新しく短時間勤務者やサポート業務の従業員等を受け入れるには、既に就業中の従業員との給与の兼ね合いなど、様々な課題があります。そのような課題を共有し、現場にどうすれば受け入れてもらえるか、各社意見が交わされました。

6. テーマ:採用ブランディング ~企業と求職者のイメージギャップ~

採用するためのブランド構築に必要なステップを明示しながら、各社の抱える課題を探りました。C社(アパレル)より、求職者から企業がどう見られているか、「採用力調査」による他社との比較分析をもとに、企業の魅力が求職者に伝わっていないギャップの解消施策についてお話いただきました。その他、ベンチマーク企業を見つける、リファラル採用の必要性など、課題解決に向けた様々な取り組みについて意見交換がなされました。

7. テーマ:教えるから学ぶへ。導入研修にかかる業務削減と戦力化の両立

採用やシフト作成の難しさもあるなか、新人教育をする店長の業務負荷を解決する手法について話されました。D社(飲食業)より、クラウド型サービスの「Teachme Biz」の事例をご紹介いただきました。商品作成マニュアルをクラウド化したことにより、提供商品の品質が維持されることや店長の集合研修にかかわる出張時間が大幅に削減され、本来の業務に集中しやすくなった効果などが話されました。

8. テーマ:アルバイトからの社員登用・キャリアプラン設計

人材不足が常態化するなか、優秀な人材確保の手段としてもアルバイト・パートからの社員登用は注目されています。クラウド人材管理ツールのカオナビ担当者より、正社員、非正規社員関係なく、人材情報を一元管理する仕組みとその効果についてお話しいただきました。その後、参加者から社員登用の基準と新規採用の基準の違いや、俗人的ではない客観的な評価の方法、組織コンディションの話など多岐にわたり意見交換がされました。


HRテクノロジーの活用や働き方改革についての議論が、現在様々な会社で活発に行われていることと思います。しかし導入すること自体が目的化してしまったり、推進するだけで従業員の満足度が上がらず、経営としての効果はどうなのかなど、課題も多いのではないでしょうか。ここまでご紹介してきた各社の取り組みは、そういった課題への大きなヒント、道しるべになるはずです。