人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2018年11月05日

研修生ファーストの店舗で「学び」を集めて育成する

メイン写真

今回クローズアップするのは「伸和ホールディングス」

北海道札幌市西区に本社を構える伸和ホールディングスの外食事業の一つとして、北海道でチェーン展開している「炭火居酒屋 炎(えん)」では、2018年6月にJR札幌駅近くの店舗を「研修用」の店舗に変更しました。その狙いは、新人をしっかり育成し、早期離職を防ぐこと。この研修用店舗を考案した店長の平野さんと、実際に研修を受けている今村さんに話を伺いました。

  • ● 社名/株式会社伸和ホールディングス
  • ● 創業/2004年5月1日
  • ● 本社所在地/北海道札幌市西区二十四軒2条3丁目2番36号 伸和ビル
  • ● 資本金/3600万円

新人スタッフが学びながら働く「研修専門」の店舗をオープン

通常の飲食チェーン店では、アルバイトは採用された店舗で働きながら徐々に仕事を覚えていくのが一般的です。しかし「炭火居酒屋 炎」では、採用された店舗で働く前に、2018年6月に開設した研修用の店舗「生つくね研修センター札幌駅前店」で一定期間働き、仕事を覚えます。この店舗では、研修中の新人が主体となりホール・キッチンなどの業務を行うのが大きな特徴です。

「このお店は、お客様に飲食サービスを提供するという部分では他の店舗と変わりません。ただ、まだ研修中のスタッフが応対するため、行き届かない点も出てきます。店名に『研修センター』と入れているのは、そういった点をお客様にあらかじめ理解していただきたいからです」と話すのは、この店舗を考案した店長の平野泰成さん。

写真1
研修専用の店舗を考案した店長の平野泰成さん。

研修センターに来たアルバイトは、「研修生」として、研修用に作られたプログラムをベースに実地で仕事を覚えていきます。基本的に、ホールかキッチンのどちらかの業務を覚えることになるため、プログラムもホールとキッチンで別のものが用意されています。それぞれ10項目・5段階評価の評価表で仕事の習得状況を管理していきます。そして、すべての項目で4以上をとったアルバイトは研修を卒業し、元々採用された店舗に戻り、戦力として働くというのが基本的な流れになっています。

研修センターでは平野さんが「教官」、数人のベテランアルバイトが「指導員」として、研修生をフォローしながら仕事を教えます。プログラムの評価表を運用することによって、教官や指導員は研修生一人ひとりがどれぐらい仕事を覚えているのか、何が足りないのかを共通認識できるようになっているのもポイントです。

「研修期間は10日間が標準ですが、最速だと2日間で卒業することもありますし、長いと20日ぐらいかかる場合もあります。アルバイトが初めての人もいれば他の居酒屋で働いた経験がある人もいますが、求めることは変わりません。最も大切にしているのは『活気』で、とにかく声をしっかり出せることが第一ですね。最終的には、現場でわからないことがないレベルになったと判断したところで、卒業となります」。


「研修生ファースト」の店舗で人材不足を打破へ

そもそも、この研修センターを作ることを平野さんが発案した理由は、新人が慣れないまま辞めてしまう早期離職をなくし、もっと楽しく働いてもらいたいという気持ちからでした。

「以前は他の居酒屋と同じように、新人でも初日からお店に入ってもらって、その場で覚えてもらうという形でした。でも、どうしてもお客様ファーストになるので、新人をずっと見ているのは難しいことも多くて。そうすると、新人はわからないことがあっても聞くに聞けず、仕事が楽しくなくなり、辞めてしまうという悪循環になってしまっていました。うちで働くのはほとんど学生で、卒業までの期限付きで働いています。だから常に新しい人材を育てていかなくてはならないのに、育つ前に辞めてしまう。定着率を高めることや、人材不足の解消は大きな課題でした」。

何とか手を打ちたいと考えた平野さんが考案したのが、「研修生ファースト」の店舗を作ることでした。新人アルバイトが店舗運営の全てを担い、ベテランのスタッフがフォローをします。新人ゆえに接客や調理などに未熟な点が出てくることへの対応策として、あらかじめメニューの値引きを行い、お客様にも納得の上で来店してもらうという仕組みにしました。


未経験でも働きやすいサポート体制が魅力

実際に働く研修生には、この研修センターはどう映っているのでしょうか。今村拓実さん(23歳)は、社員候補として研修センターで働き始めて15日目(取材時)。元々自動車の整備士として働いていましたが、周囲に飲食業界で働く人が多かったのもあり、一念発起をして「炭火居酒屋 炎」を運営する伸和ホールディングスに入社しました。

「飲食業は初めてだったので、研修用の店舗があるというのは大きな魅力でした。私はホールとキッチンの両方を覚える必要があり、とくに初日は右も左もわからない状態でしたが、教官や指導員に質問すればすぐに答えてくれるなど、日々手厚くサポートしていただいています。研修プログラムの評価表をみれば、これから何を頑張ればいいのか一目瞭然なので、目標も立てやすいですね。それに自分だけでなく周りのみんなも初心者なので、『自分だけができない』と委縮してしまうこともありません」と、研修用の店舗があることや、充実したサポートを受けられることに満足している様子の今村さん。

写真2
未経験ながら「手厚い研修プログラムがあるので安心して仕事ができる」という今村さん。

今村さんは整備士として就業経験があるため、「ある程度、接客の経験はあると思っていましたが、改めて自分の言葉遣いがまだまだできていないことを思い知りました」とも話します。飲食店はお客様との距離が近く、また接客の頻度、時間も多いためです。教官から注意した方がよい表現やキーワードを教えてもらい、就業前にはノートを見直して意識するなど、「自分に足りないものを自覚し、学んでいる最中です」と教えてくれました。


お客様も研修生を育てるよき指導者に

平野さんは店長として店舗運営をしながら、教官として研修生の学びをしっかり確保することの両方が求められます。その点についての工夫を聞きました。

「私や他の指導員がお客様から呼び止められても、『ただいま研修生がお伺いします』といって、必ず研修生を連れていきます。私たちが応対してしまうことで、研修生が学ぶ機会を奪うといけませんからね。研修生は若葉マークのバッジを胸につけていて、新しく入ったスタッフだとひと目でわかるようにしています。ですので、研修生の対応で気になることがあったときには、お客様が指導員にこっそりと『これを教えてあげて』と伝えてくださることも。毎日来店するような常連のお客様も多く、最近ではお店全体で連携を取りながら研修生を育てているという感じになってきています」。

このように、教えるスタッフも指導の経験を積み、来店するお客様も自然と協力する体制ができてきたことから、研修を卒業するスピードも当初より速まってきているとのことです。

写真3
教官の平野さんから仕事を教わる今村さん。研修を卒業する日もそう遠くはありません。


定着率と応募数アップを実感。さらなる展開も検討中

6月に研修センターを開始してから4カ月(取材時点)で、約85人が研修を卒業しました。当初の目的である早期離職を防ぐという課題に対して、平野さんは確実な手ごたえを感じているといいます。

「実家に帰らなくてはならないといった理由で辞めた人はいますが、『仕事が嫌で辞めたい』という声は聞かなくなりました。他店舗の人材不足で困っているという声もだいぶ少なくなってきましたね。さらに嬉しいのが、アルバイトの応募数も増えてきているということ。『研修がしっかりしていて丁寧に教えてくれそう』というのが、その理由です。また、『こういうところなら安心だから、働いてみたら?』と親から勧められて、面接に来た学生もいたといいます。研修センターがあることで、子どもが働く場としても安心と親御さんに思っていただけているのは嬉しいこと。そういった期待に、これからも応えていきたいです」。

今後は、現在の研修センターで教えるだけではなく他の店舗に出張研修に行くことや、すでに各店舗で働いているスタッフを研修センターに呼んで研修を受けてもらうなど、さまざまな展開を考えているという平野さん。飲食業界の人材不足は深刻で、いかにして働きやすい職場を作り、人材を定着させるかは多くの企業にとっても大きな課題です。「炭火居酒屋 炎」の取り組みは、それを打破する一つのモデルとして、ますます注目を集めそうです。

「伸和ホールディングス」の事例から学ぶ人材活用のポイント

「学び」を集める
各店舗で採用された新人全員を研修店舗に集めることで、育成したい内容、ノウハウ、リソースも全て集中する。
評価の共有
「評価表」の運用で、指導員や教官など教える側と、研修生の学ぶ側で共通認識を持ち、知識習得やスキルを身に着ける。
お客様も指導者
「接客」と「育成」の両立のカギは、お客様にも「育成」の協力を頂くこと。お店全体で研修生を育てる環境づくり。