ジョブズリサーチセンター

ホットコラム 「MY論~私はこう考える!」

2014年01月07日

有期雇用における採用の鉄則
どうすれば仕事や職場に
コミットしてもらえるのか ~定着の鉄則~

有期雇用において、採用した人材を仕事や職場や同僚にコミット(本気で向き合って取り組むこと)してもらうことは、無期雇用の場合よりも難しいです。期限付きであることで、会社と個人の関係性が薄くなりがちであることや、もともとドライな契約関係で会社や仕事と付き合いたいと思う人も多いからです。そのため、ちょっとしたコミュニケーションのすれ違いなどで退職に結びつくことも少なくありません。せっかく採った人材に気持ちよく活躍してもらうために気を付けるべきことについてお話しします。

インセンティブだけでは足りない

有期雇用人材を定着させるため多くの会社が取り組んでいるのはインセンティブ(狭義として、連続勤務や休日出勤、売上等の行為に応じた一時的な特別金銭報酬)によるものです。「頑張れば、報われる」信賞必罰の仕組みで、本気を引き出そうというわけです。

しかし、インセンティブによるコミットは、短期的には一定の効果があるものの、実は持続性が高くないことが知られています。心理学では「外発的動機付けは、内発的動機付けを阻害する」と言い、インセンティブのような「外発的」なものによって動機付け(モチベーションアップ)すると、もともとその人が仕事に感じていた「面白さ」や、共に働く仲間への「愛着」などの「内発的」な動機がなくなっていくとされます。例えると、算数を面白いと思い取り組んでいる子どもに、100点を取ったご褒美でおもちゃを買い与えたりすると、以降はおもちゃのために勉強を頑張るようになり、もともとの算数への興味はどこかへ行ってしまうというわけです。

また、インセンティブは「慣れて」しまいます。金銭的報酬には際限がありません。いくら報酬を支払っても、「もっと」欲しくなるのが人間です。特に、報酬額に制約がある有期雇用においては、この手法ではすぐに限界に達してしまうことでしょう。

短期の仕事であればそれでも問題ないかもしれません。むしろ即効性あるインセンティブという手法は便利です。しかし、皆さんの会社で、「早期マンネリ化」や「早期退職」等、有期雇用の社員がコミットする「期間」が問題になっているとすれば、インセンティブ以外の、「内発的」動機付けをいかに生み出すのかを考えてみる必要があります。

愛着は、「重要感」によって生まれる

有期雇用の場合、「内発的」動機付けのうち、仕事に関する興味関心等の「知的好奇心」を醸成することは容易ではないかもしれません。有期雇用者に任せている職務は、その会社の中核となるコア業務ではなく、周辺的な事務やサポート的業務であることが比較的多いからです。そのため、有期雇用者に求める「内発的」動機付けは、仕事や職場や仲間などへの「愛着」の醸成が中心になります。では、どうすれば「愛着」を感じてもらえるのでしょうか。

最も効果的なのは、有期雇用者が「会社が自分を大切にしてくれている」という「自己重要感」に働きかけることです。人間には「返報性」(何かしてもらったことに対しては、お返しをしなくてはならないと思う心性)という心理的バイアスがあります。会社から自分に対して、大切にしてもらったという思いを持てば、逆に自分も会社に何か貢献しなければならない、という思いが生じ、それがコミットにつながります。

「重要感」を醸成する方法は多々あります。入社時期が様々なことが多い有期雇用ではやや軽視されがちな「入社式」「歓迎会」などを徹底するのは一つの方法です。何事も最初が肝心で、会社への入り口での対応は後を引きます。また、定期的に「謝恩会」や「慰労イベント」などを実施するのも効果的です。この時ばかりは、経営者や幹部層がホスト側にまわり、日頃の勤務への感謝を真摯に伝えることで、相手も本気になってくれるのです。

他にもいろいろとありますが、大事なことは「神は細部に宿る」で、本気で有期雇用者を大切にする心を持つことです。例えば日頃の言葉づかい(有期雇用者の立場をなんと呼ぶか、等。店舗などでスタッフを「クルー(同じ船に乗る乗務員)」と呼ぶように)などにも、こちら側の本気は表れます。形だけの重要感は見抜かれ、逆にしらけムードを生むでしょう。

有期雇用人材もインフォーマルネットワークに取り込む

さらにもっとコミットを引き出したいということであれば、無期雇用者に特有の「インフォーマルネットワーク」(新卒内定者「同期」などのインフォーマルな横のつながり)を何らかの形で有期雇用者の間にも形成するサポートを行うという方法もあります。同時期に入った人を集めて「同期」意識を醸成するような会を催したり、同じ職種での勉強会や懇親会を実施したりするなどの手法です。

有期雇用者と会社の関係は、横のつながりに乏しく、自分一人vs会社となっていることがよくあります。入社時の同期や永年勤続によってできた人間関係のある無期雇用者と違い、有期雇用者は「孤独」なのです。その状況で、職場の人との関係性が悪くなったり、直属の上司や同僚には言えない悩みが募ったりすると、逃げ場がなく退職するしかないと思い詰めることがあります。しかし、モチベーションが下がったり、辞めたくなったりしても、相談する相手や助けてくれる人がいることで、コミットが維持できたり、退職を思いとどまったりするものではないでしょうか。

株式会社人材研究所 代表取締役社長
組織人事コンサルタント
曽和利光
京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と人事採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。2011年に株式会社人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために諸事業を展開中。人事プロデューサークラブエグゼクティブパートナー、GCDFキャリアカウンセラー、他

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