座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2020年09月23日

#コロナ影響#テレワーク#派遣

コロナ禍における派遣業界の兆し

コロナ禍の変化を明るく前向きにとらえるイメージ写真

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
4回目となる今回の座談会テーマは「コロナ禍における派遣業界の兆し」です。ジョブズリサーチセンターの宇佐川が進行役となり、リクルートジョブズで多くの派遣会社を担当してきた手塚さんと派遣業界の最新動向を知る川渕氏の3人で現状と兆しについて話し合います。

  • 川渕 香代子さんの写真

    川渕 香代子(かわぶち かよこ)
    一般社団法人人材サービス産業協議会事務局部長 兼 一般社団法人日本人材派遣協会事務局事業部長

    経済産業省、株式会社スタッフサービスホールディングス、株式会社リクルートスタッフィングを経て2012年より人材サービス産業協議会にて派遣社員のキャリア形成支援プロジェクト、優良派遣事業者認定制度を担当し、2020年4月より、一般社団法人日本人材派遣協会にて広報を担当。

  • 手塚 美奈子さんの写真

    手塚 美奈子(てづか みなこ)

    1986年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)入社。以来ほぼアルバイト・パート領域で営業職、営業マネージャー職、業界に広く浅く関わってきた経験をもとに2015年から現職(パートナー様の営業支援。主に人材業界の営業サポート)。1987年当時広報宣伝を担当しており、「フリーター」という造語(映画化)に関わったという経験も。

コロナ禍を追い風にできるか、人材派遣業界の今後

宇佐川:今回のテーマは「コロナ禍における派遣業界の兆し」です。お二人は長く派遣会社や業界全体をみてきていますが、2008年リーマンショック時と現在のコロナ禍の状況を比較される派遣会社やスタッフの方々も多いのではないかと思います。まずはその点からお聞きしたいのですが、リーマンショック時と今を比較すると何がどう異なると思われますか?

川渕:まずリーマンショック後に起こったのは、主に製造業で働く派遣スタッフの方の中途解除(いわゆる派遣切り)です。当時、問題視されたのは中途解除だけではなく、寮で暮らしていた方が仕事と住居を同時に失うという点でした。現在は法改正による規制が強化され、中途解除により派遣会社に損害が生じた場合は、派遣先が損害賠償の責任を負うため、安易に契約を中途解除することがほとんどないように思います。また、コロナ禍で影響受けている業種が、サービス業や観光業という点もリーマンショック時との違いとしてあげられますが、中途解除の状況については業種の違いはないようです。

有期雇用の内訳と比率のグラフ
出所:一般社団法人 日本人材派遣協会
https://www.jassa.or.jp/keywords/index1.html

宇佐川:労働者派遣法の改正など社会のバックアップ体制の強化が後押しになっているのでしょうか。

川渕:そうですね。派遣会社が中途解除のリスクについて契約書面のなかに明記して派遣先企業と話し合えるようになったことは大きいと思います。また、派遣先企業も2008年当時よりもコンプライアンスやレピュテーションを強く意識するようになってきたとは思います。

手塚:派遣会社における派遣スタッフの仕事を守るという意識は強いと思います。リーマンショック時よりも、雇用調整助成金を利用する、新規募集をすぐご案内するなど、あらゆる手段で派遣スタッフの不安を払拭するように取り組まれているお話を聞きました。

宇佐川:派遣会社の良いところのひとつが、派遣スタッフとして登録することで仕事探しが自分一人ではなくコーディネーターと一緒にできることだなと思います。コロナ禍にあって改めてそう思う方もいらっしゃるのではないかと…。

手塚:3月頃から20代など若年層の応募が以前よりも増えた印象はあります。これまでよりも多様な世代の働きたい方々のニーズに応えられるようになるのかなとは思います。ただ、派遣スタッフは即戦力が求められることも多いので、派遣先の仕事とマッチングできるかが課題とおっしゃる派遣会社もいらっしゃいます。

派遣先との面談がうまく進んだイメージ写真

宇佐川:なるほど。いま派遣のニーズはどのような仕事で増えているのでしょうか。

川渕:期間限定のプロジェクト型の案件(たとえばコールセンターなど)が増えているという話は聞きますね。また、医療情報提供サービス関連でも派遣スタッフのニーズが増えていると聞くことがあります。

手塚:そうですね、4月以降から医療・介護業界の派遣ニーズは増えていると思います。もちろんそれ以前からニーズはあったのですが、マッチングが難しいこともあったので、控えていたものが今なら募集できるということで増えている印象があります。また、コロナ禍で増えているのは、病院や施設における消毒・滅菌やリネンサービスなどがあげられます。
あとコロナ禍で変化していると感じるのは、コールセンターのニーズは増えているのですが3密を避けるために、人数を増やして対応するというよりも、サービスの質を高めるため一定以上のスキルを持つ人材が欲しいという声は聞きます。それでコールセンター職種の時給が高くなっているというのはあるのかもしれません。

テレオペ・テレマーケティング・スーパーバイザーの時給グラフ。2018年から2年間が増加傾向にある。
出所:「派遣スタッフ募集時平均時給調査」リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター

川渕:リーマンショック後も製造業で働いていた方を介護や清掃など他の人材需要のある仕事に派遣する、といったことはありました。派遣会社はそのようにニーズがある職種へスムーズに移行できるようにサポートしてきた経験があると思うので、今回もそういった強みが活かせるといいなと思っています。

手塚:派遣会社は派遣先の業界を特化しているところがあります。たとえば、工場などの製造業の派遣先をもつ派遣会社、アパレルや量販店など販売の派遣先をもつ派遣会社などですね。業界特化している派遣会社の方からは、どういった業界でニーズが活況か?などお声がけをいただくことがあります。先ほど申し上げたように、医療介護系が伸びてはいるのですが、業界や仕事内容の知識がないと、派遣会社もマッチングすることは簡単なことではありません。

川渕:確かにそういう場合は、派遣先の業務を細分化して、自分たちの派遣会社で担えることを創りだしていくことが必要になってくると思うのですがそのような対応は進んでいるのでしょうか。

手塚:派遣先と業務内容を確認するのは営業だと思うのですが、業務の細分化はできても、その後のコーディネーターによるマッチングが難しいということはあります。業務の細分化によって新しい切り口で仕事をご案内する場合は営業とコーディネーターによる連携を強化して、仕事内容を明確にわかりやすくしたほうがいいですよね。

川渕:すごく当たり前の話になってしまいますが、丁寧なヒアリングで仕事内容をしっかり把握することが大事ですよね。たとえば、事務の仕事でも単に資料作成というのではなく、エクセルのデータからのグラフ作成を伴うパワーポイントでの資料作成、などどのくらいのスキルレベルが求められるかなど大事ですね。

派遣スタッフとのコロナ対策はオンラインツールも使った面談でもフォロー

宇佐川:派遣会社としてのコロナ対策は派遣先と連携して実施されていると思います。コロナ禍をきっかけに、潜在的な課題に着手できたというのはあるのでしょうか。

川渕:やはり在宅勤務の推進でしょうか。それ以外では、休業手当の対応はリーマンショック時よりも多くの派遣会社でなされていると思います。雇用調整助成金も、リーマンショック時は一部の特定派遣の会社が活用していた印象ですが、今回は多くの派遣会社で助成金を活用した休業手当対応はされていると聞きます。

在宅勤務をしている派遣スタッフのイメージ写真

宇佐川:在宅勤務の話はこのあと詳しくお聞かせください。派遣スタッフにとっては派遣先におけるコロナ対策だけではなく、派遣会社からのフォローもあるのかな?と思いますがいかがでしょうか。

川渕:そうですね。派遣会社により違いはあると思いますが、派遣先担当者とコロナ対策を確認して派遣スタッフと話し合うことや、派遣会社から本人への連絡時に感染対策を告知するなどは基本的に取り組んでいると思います。また従来は対面で実施していた派遣スタッフとの面談などはオンラインで実施しているところも多いです。
新たに就業する際、スタッフが派遣先の職場見学を希望する場合もオンラインで実施することもあるようです。ただその際に注意したいのは、スタッフの個人情報(連絡先)が派遣先に伝わらないようにすることです。スタッフのプライベートなLINEのアカウントなどで派遣先と直接ビデオ通話をさせるというのはもちろんNGです。派遣会社が介在し、ビジネスで使用しているオンラインツールを使うことで必要以上にスタッフの個人情報が伝わらないようにする工夫が必要でしょう。

今回は、一般社団法人人材サービス産業協議会事務局部長として派遣業界全体を長年みてきた川渕氏と、リクルートジョブズ営業として派遣会社のサポートをしている手塚さんと一緒に派遣業界の現状と変化について話し合いました。リーマンショックの際に社会問題にもなった派遣切りの印象がある方も少なくないと思いますが、当時と現在で何が異なるか、また現在はどのように派遣業界が変化しているのかを概観できたと思います。後編はコロナ禍で進んだ取り組みとして派遣スタッフの在宅勤務がテーマです。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)