~結びに~

「ありのママ採用」対談

ありのママの人物像、ケイパビリティ、活動事例、本音座談会…と「ありのママ採用」について紐解いてきた当コラム。最後に、ジョブズリサーチセンター/センター長の平賀充記とパート・アルバイトの女性活用支援に詳しい、(株)働きかた研究所の平田未緒さんが、ありのママ採用の効果や、雇用側の心構えについて語った。

「ありのママ採用」が、業績にインパクトを生みはじめている
ジョブズリサーチセンター
センター長 平賀充記

同志社大学経済学部卒。『フロム・エー』『タウンワーク』『はたらいく』の編集長を歴任。2013年3月まで株式会社リクルートジョブズの執行役員を務め、2013年4月ジョブズリサーチセンター設立とともに、同センター長に就任。多様な働き方が尊重される社会づくりに向け「ありのママ採用」という考え方を調査・提案している。

ママたちに愛情をかけやる気を引き出す、相思相愛マネジメントを
株式会社働きかた研究所
代表取締役社長 平田未緒

早稲田大学卒業後、情報誌記者・編集者として勤務。総合求人広告企業株式会社アイデム 人と仕事研究所にて人とマネジメント情報誌の編集長、同所所長を歴任後、2013年に株式会社働きかた研究所を設立。企業に対する「パート・アルバイトの活用支援」事業を軸に活動を開始する。各種公的委員会・研究会等の委員を務めるほか、著書ならびに講演も多数。

ママに自信を!「ありのママ採用」は事実に基づいたエール

平賀:職場復帰をしたい主婦層の方はたくさんいると思うのですが、働くという意味で自分に自信がない人が多いと思うんです。たとえば、子供の都合があってフルタイムで働けない引け目。職場を離れていたブランクが長いとか。でも実際はそうじゃない。今回、いろいろ調べていく中で、ママが、家事や育児から身につけている、ありのままの力が非常に期待され、実際に業績貢献にリンクしているという事実がいくつも出てきた。そこで「ありのまま」のママのチカラを活かす採用「ありのママ採用」という言葉が生まれたんです。

平田:たとえばコンビニの品揃え。主婦のスタッフに子供向けのお菓子の品揃えを頼んだら、子供が好きなキャラクターを理解していたおかげで、売上げが150%になったという話がありますね。

平賀:サービス業、特に飲食店でのスタッフ採用となると、いわゆる若い人神話というか、若い人ばかりが労働力としてみなされがちです。でもそこにミドル層が入り込んで活躍しているという事実は相当なインパクトがあります。平田さんが見てこられた中で、今、ママ採用は増えていると思いますか?

平田:主婦の力に気付いて、意図的に採用する企業は確実に増えてきました。女性の方も働きたい方が増えていますし。少子高齢化もあって、若い人だけではなくミドルを活用する機運は高まっていると思います。

最初の一歩が、大きな一歩に 働く中で開ける新しい世界

平賀:逆に、ママが優秀な働き手として活躍するために、障壁となっているのは何だと思いますか?

平田:ひとつは、ママ本人の子育てに対する気持ちが強いこと。保育園問題もありますが、自分で子供を見たい、見なきゃ、という強い思いもあるんですね。子供が3歳くらいになると、働きたいと思うママも増えますが、でもみんな職場に対して要望も多い。それで身動きできないでいる気がする。いろんな事を天秤にかけているうちに、消極的な選択をしてしまっている。

平賀:ある種の勇気は必要だと思います。子育てという制約条件もあるうえで飛び込むわけですからね。何人かの方を取材しているんですけど、最初は午前中だけの勤務が、何年か続けているうちに楽しくなってフルタイムで働き始める方もいます。だんだんステップを踏んで復帰していく方も多いですね。初めの小さい一歩が実は大きい一歩かもしれませんね。

平田:やってみて初めて開ける世界に飛び込んでいくことは、素敵なことではないのかな。

配慮はするが遠慮はしない オーダー・メイドシフト

平賀:一方、企業側から見るとどうなんでしょう?

平田:やはり「活躍してもらうのが難しい」という印象はあると思います。これは企業側が考え方を変えるべきですが、フルタイム勤務への要望度が依然高い。残業できないとか、急に休んでしまうようだと、活躍してもらうのが難しいのではと思ってしまうんです。

平賀:個人に合わせてシフトを細かくすることに消極的な企業が多いですよね。3交替制のシフトは用意できるけど、それ以上に細かくなると難しい。

平田:実は、オーダー・メイドシフトというものを取り入れて、月商900万円というすごい業績を残している婦人服店があるんです。接客が良くてリピーターがついている。接客スタッフはパートの主婦の方が多いんですね。そこのオーナーが言うには、「配慮はするが、遠慮はしないマネジメント」を心がけていると。配慮は時間的な面。あるスタッフさんは10時から15時まで働いて、子供を迎えに行って、夕食を作って、同居の養父母に子供を預けて、自分は17時過ぎにお店に戻って閉店まで勤務。一番忙しい時間に働けるシフトですね。普通だったらそのようなマネジメントは面倒です。でもその徹底が売り上げにつながっている。

平賀:そこまで徹底していると、哲学を感じますね。

平田:主婦に対してきめ細かい対応をするのは、確かに手間がかかります。でもコストではない。そこを乗り越えたときに、補ってあり余る程のリターンがある、投資なのだと思います。

企業、家庭の心遣いで、ママが「愛される労働力」に

平田:一方でママ側も、ママになりすぎず、職場から愛される努力も必要。「愛される労働力」になろう、と。それには、家族がママの仕事や職場をリスペクトする気持ちと配慮や心遣いが大切ですね。「どうせパートなんだから」なんて言わずに。もっとも実際に働くママから話を聞いてみると、皆さん意外と家族が協力的だったと言います。家庭の方針はそれぞれだと思うのですが。

平賀:企業は、接客サービスの現場でスタッフに求める役割を限定的にとらえがちです。オペレーティブに対応してくれることだけを観点にするのではなくて、ちゃんとママと向き合って考えることが大事なんですね。

平田:ママたちの背景に配慮しつつ愛情をかければ、やる気を引き出せると思います。そうしてママの力を自社の力にしている企業が強いのだと思います。ブランク明けのママたちの中には緊張感を持ってはじめる人も多く、遠慮をしないことが期待の裏返しとして伝わります。それで力を引き出されるママが増えたら、素敵ですよね。

※追記:対談をしている平賀は、2013年12月時点のセンター長です。

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「ありのママ採用」のススメ