採用の知恵袋

2024年02月15日

#人材不足#育成・定着

採用の知恵袋 2024年2月号 ―中小企業こそ取り組みたい「人的資本経営」―

「人的資本」や「人的資本経営」という言葉を耳にすることが多くなったものの、「いまいち内容を理解できていない」「結局なにに取り組めばいいのか分からない」という人も多いのではないでしょうか。また、大手企業に限定した話、と思われている人も多いですが、決して中小企業に関係のない話ではありません。人的資本の重要性を理解し従業員に投資すること は、定着や活躍にもつながるでしょう。
「採用の知恵袋」は、ジョブズリサーチセンターが調査研究を通して得た採用に関する知見をもとに、企業から寄せられる質問に回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。


Q.

「人的資本」や「人的資本経営」という言葉をよく聞くようになりましたが、いまいちよく理解できていません。また開示義務化の話も聞きますが、中小企業の当社は特に気にしなくても良いでしょうか。(関西エリア/製造業)

A.

人的資本というと、大手企業の開示義務にフォーカスされがちですが、決して中小企業に関係のない話ではありません。現状は未公表の社内情報を知りたいと考える求職者は多く、大手企業が開示義務化に伴い力を入れることにより、そうではない中小企業が遅れをとることになりかねません。社内の人的資本に目を向け、企業競争力を上げていきましょう。
※2023年3月期の有価証券報告書から、大手企業約4,000社に対して人的資本情報の開示が義務付けられています。

解説

◇ 「人的資本経営」とはなにか

人を、どんどん価値が下がっていく「資源」ではなく、投資することで価値を高めることができる「資本」と捉え、すべての人を活かし企業価値向上を目指す経営のあり方のことをいいます。人的資本経営を実現するためには、「優秀な人とダメな人がいる」という考え方ではなく、「すべての人が強みと弱みをもっている」と捉えることが重要です。

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◇ なぜ今注目されているのか

人的資本経営という考え方はコロナ禍以降よく聞くようになりましたが、コロナによって醸成された考え方ではありません。コロナ前から、IT技術の進化や産業構造の変化によって、非連続的で予測不可能な時代(VUCA時代)に入り、組織も個人も課題への対応が求められてきました。それが今、コロナによってさらに加速している状況です。

テクノロジーが進化することでこれまでと大きく製造方法が変わる、顧客ニーズが多様化することで従来のマーケティングでは不十分になる、働く人が多様化することでこれまでの人事制度ではカバーしきれない、など、企業がこれらの進化や多様化に適応し、より成長していくためには、人がより重要で財務状況を改善するだけでは対応できません。

たとえば、従業員が似た属性や似た志向の人が多い場合、似通ったアイデアばかりが出てきてしまい消費者のニーズをどこかで見落としてしまうかもしれません。あるいは、慣習的に行われている取引に違和感をもった中途入社の社員がいても、自分はその組織の少数派であると感じ、意見を言い出しにくく、のちのち重大なコンプライアンスリスクを引き起こす可能性もあります。こういった問題は財務状況を改善することでは解決できず、企業がどのように対応しようとしているのかを示す非財務情報がとても重要になっているのです。
※非財務情報とは、社内にある人的リソース、知的財産など。その中でも、従業員に関するものが「人的資本」。従業員がもつスキル、ノウハウ、従業員の属性(男女比、男女間の賃金差など)、従業員の働き方(育休取得率など)などを指します。

◇ 「人的資本経営」に向けてなにから始めるべきか

新たになにかを始めなければいけないと構えることなく、今社内にある人的資本を可視化することから始めてみてはいかがでしょうか。従業員や経営陣の男女比、男女の賃金差などはすでに社内にある情報を整理することで可視化することが可能です。今の従業員情報を可視化することで、「こういう人が多い/少ない」「こういうスキルをもった人が多い/少ない」「そもそも情報が少ない」といった現在地を把握することができるので、「男女の賃金差はどうして発生しているのか」「多様性のある組織にするにはどうしたらいいか」など、自ずと今後の検討事項が見えてくるでしょう。会社として将来目指す姿や3年後5年後の経営計画と合わせて、ぜひ考えてみてください。