座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2020年07月28日

#コロナ影響

企業のスタンスが表れるコロナ禍の求人では、求職者が安心できるケア対策が重要

求職者を丁寧にサポートする人事担当者のイメージ

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
2回目となる今回の座談会テーマは「コロナ禍における求人、採用選考」です。ジョブズリサーチセンターの宇佐川が進行役となり、リクルートジョブズ営業の桒原さんが求人の現場で聞かれる企業担当者の悩みに対し、法政大学松浦教授よりアドバイスをいただきます。まず前編では、コロナ禍における求人という行為の意味を捉えなおすところからお聞きします。

  • 松浦 民恵さんの写真

    法政大学キャリアデザイン学部教授
    松浦 民恵(まつうら たみえ)

    博士(経営学)。専門は人的資源管理論。日本生命相互会社、東京大学社会科学研究所、株式会社ニッセイ基礎研究所を経て、2017年4月より法政大学へ。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授を兼任。労働政策審議会職業安定分科会需給制度部会、中央最低賃金審議会等の公益委員。主な著書は『営業職の人材マネジメント』(中央経済社)など。

  • 桒原 徹也さんの写真

    株式会社リクルートジョブズ 
    営業本部 エリアマーケット営業統括室 エリア営業1部 福岡2グループ
    グループマネージャー
    桒原 徹也 (くわばら てつや)

    2009年リクルートグループに新卒入社。横浜からキャリアをスタートさせ九州や中国地方で経験を積みながら、一貫して中小企業のサポートに尽力し12年。現在4年目となる福岡県で、多種多様な業界の現場責任者、経営者と向き合い、現状を的確に分析する。趣味は食べ歩きのほか、ゲームやYouTube鑑賞。デジタルネイティブ世代の感覚を持ち合わせている35歳。

コロナ禍の求人を見るのは求職者だけではなく社会全体

宇佐川:コロナの影響が出始めた3月頃から緊急事態宣言中の4、5月にかけ、企業の採用担当者より「このような状況で求人を出すことは大丈夫なのか?不謹慎なのか?」といった声が聞かれるようになりました。多くの人が外出を控えるなかで、求人を出してもいいのだろうか、といった戸惑いです。

松浦:求人を出す、ということは平時であれば普通に行えばよかったことですが、今は有事であり、有事の度合いによって、求人そのものへの見方が変わってくるように思います。特に今は求職者だけではなく、求人を見たあらゆる人、社会全体が求人そのものからその企業のスタンスを見出していくのではないでしょうか。緊急事態宣言が解除された今、どのタイミングで求人を出すのか、感染対策はどのように説明されているのか、求人のタイミングや感染対策の説明の程度が、その企業の危機管理レベルを評価することにつながる可能性もあります。

求人媒体に掲載された求人広告のイメージ写真

宇佐川:今までは求職者を意識して求人を出していたところを、求職者以外の第三者が見ても「この企業なら安心して働ける」と思ってもらえるような観点も大事、ということですね。ただそうなると、いろいろ考えることが増えてしまい、求人を出すことに委縮してしまう企業もありそうですが…。

松浦:今見通せる範囲で最善の策をとる、ということに尽きると思います。たとえば、今後感染状況が落ち着き、飲食店でお客様も増えると想定し人員も補強するために求人を出すという場合も、店舗における感染対策の説明や感染拡大の影響でシフトが減る場合もありうるといった、リスクを記載するなどですね。感染拡大の状況次第で、いろいろな想定が崩れる可能性がある、ということを考えると、そのことを伝えることも含めて今出来ることをする、想定が崩れた場合は改めてその時点で最善の策をとる、ということになるのだと思います。

宇佐川:そうなると、我々が求人情報を企業から頂く際にも、入社に向けた条件の確認だけではなく、入社後にコロナ影響で不安定な状況が起きた場合、どのような働き方、仕事になるのか、といったところまで確認できるとよいのかもしれないですね。

松浦:そうですね。想定した仕事を確保できるのがベストではあると思いますが、業種や職種により難しい場合もあると思います。事前にどれだけネガティブ情報を誠実に伝えられるか、というのはこれから重要になるかもしれません。

入社に向けた条件や、入社後の働き方や業務内容などを入念にチェックをしていくイメージ写真

桒原:おっしゃるように感染対策や今後の状況に応じた休業リスクなど、どのように伝えたらよいのかというのは企業担当者との打ち合わせでも話にあがることがあります。ただ入社後も不安定な状況がありうることを踏まえ、説明することの大切さを十分に話せていませんでした。表現が難しいですが、求職者からの信頼を得るためにはとても大事ですね。

宇佐川:事前に入社後のネガティブ情報を説明する場合は、入社前に個別契約書などで明示する、といった手段がよいのではないでしょうか。アルバイトでも契約の内容は、入社前~入社時にしっかり説明することは必要です。企業担当者がしっかり対応できるように我々もサポートしていきたいですね。

コロナ禍においても求職者が安心して働ける仕組みづくり

宇佐川:企業担当者の関心は求人のタイミング、内容のほかにどのような点がありますか?

桒原:特に飲食店などでは営業活動の見通しを持ちづらく求人のタイミングが難しいという声は非常に多いです。ただ、我々も『タウンワーク』の応募状況をみていると、確実に応募数が増えています。我々としては、応募が増えている現状を踏まえると、マッチングのお手伝いがしたい、という気持ちになるのですが…。学生はこのような状況についてどう思われるのでしょうか。

松浦:コロナ禍の影響を強く受けている飲食店は学生のアルバイトが多いですよね。学生からもシフトが大幅に減少した、店舗が休業してアルバイトができていない、といった声を聞くことがあります。ですので、他の業種の検討、たとえば宅配などを始めるといった、飲食店以外のアルバイトの検討が進むのではないかと思います。

桒原:そうですね。飲食店は学生のアルバイトが多いので企業担当者からも苦渋の声は聞きました。

松浦:学生のアルバイトについていうと、彼ら・彼女らの保護者のことも考えたほうがよいですね。保護者も、感染対策がきちんととられているのかを、やはり気にされると思います。学生本人だけではなく、保護者の心配もあって、アルバイトが控えられているという現状はあるかもしれません。

桒原:企業の感染対策の説明はやはり大事ですね。学生に関してはさらに保護者の理解も得られるように、ということですね。

コロナ禍でソーシャルディスタンスを取るなど業務実態が大きく変わった飲食店のイメージ写真

松浦:企業は感染対策について2つの視点を持つこと、つまり「感染させてしまうリスク」と「感染が持ち込まれるリスク」の両方を想定し、対処することが必要です。若年層は無症状が多く、感染しても自覚しにくいと言われています。大学でも学生に対して、感染予防のための行動指針を伝えていますが、大学外の生活であるアルバイトのことまで十分にカバーできているとは言えません。
たとえば、3日前に発熱したけれどシフトが入っているからアルバイトに行こう、というのは感染が持ち込まれるリスクにつながります。アルバイト先である企業がマニュアルなどを作成して、発熱が確認されたら休むなど、判断基準をしっかり提示し、感染対策の徹底に努める必要があると思います。

宇佐川:マニュアルで勤務日以外の日々の行動についてもケアすることが必要、ということですね。そのうえで、勤務先である店舗、職場でも密を避ける、消毒をする、マスクをするなどの感染対策を徹底する。
今思ったのですが、ドライバーの勤務前点検は参考になりそうですね。バスやタクシーなどのドライバーは、検温やアルコールチェック、健康状態の確認を必ずしています。そのような仕組みが今後は業種・職種問わずに広く応用できるのでは。

松浦:確かにそのような事例は参考になりそうです。感染対策のマニュアルも含めて、安心して働ける仕組みづくりが広がることを願います。

今回は法政大学松浦教授、リクルートジョブズ営業の桒原さんと「コロナ禍における求人」をテーマにまず求人を出すことの意味の捉えなおしや学生含め求職者目線で必要なことについてお話いただきました。後編は採用選考に焦点をあてて、面接のオンライン化はミスマッチを防げるのかといった内容になります。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)